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高血圧の食事療法

高血圧の食事療法
減塩等ポスター

                                                               

1) 食塩を控える

2) 野菜、繊維成分、ミネラルをバランスよく摂取する

3) 適切なカロリー摂取により適切な体重を維持する

4) アルコール摂取量を控える

                                                               

 

1-1) 食塩摂取と血圧との関係

 

食塩の摂り過ぎが高血圧の要因になり、高血圧の予防や治療に食塩制限が重要であることは、よく知られています。最近の大規模な研究文献1でも、食塩摂取量と血圧はほぼ直線的な関係にあることが示されました。食塩を 12.7g以上摂取しているグループで見ると食塩摂取が1g増える毎に平均して血圧1.02/0.39mmHg上昇し、食塩を7.7〜12.6g摂取しているグループでは食塩摂取が1g増える毎に平均して血圧0.67/0.35mmHg上昇していました。

食塩摂取と高血圧
高血圧-食塩摂取量

食塩を多く摂取することで血圧が上昇する程度には個人差が大きいですが、一般には高血圧の患者様ではより血圧が上昇しやすく、腎機能が低下した人、高齢者、肥満やメタボリックシンドロームの方、若干ですが女性の方が食塩の影響を受けやすいとされています。食塩を多く摂取することで血圧がより上昇する人を食塩感受性高血圧、上昇の程度が少ない人を食塩非感受性高血圧との分類もありますが、統一した診断基準はありません。一般に高血圧の患者様で30〜50%程度の方が食塩感受性高血圧と考えられています。

 

降圧薬で血圧を正常化したとしても、食塩過剰摂取は心血管疾患のリスクが残ります。食塩は血圧と独立した因子として心筋肥大を誘導するとの研究もあります。さらに、食塩の摂取が多いと骨粗鬆症や腎結石を来しやすいと報告されています。食塩過剰摂取と胃がんとの関連性も示唆されています。その理由として、胃癌や胃潰瘍の原因になるヘリコバクター・ピロリが塩分の多い環境で増殖しやすいことがあげられています。つまり、食塩感受性高血圧であっても食塩非感受性高血圧であっても、降圧薬で血圧を正常化したとしても、食塩制限には大きなメリットがあります。

食塩摂取の現状

1-1) 食塩を控えるー食塩摂取の現況と目標値

 

厚生労働省の令和1年(2019年)「国民健康・栄養調査」によると令和1年の食塩摂取量平均は男性 10.9g、女性9.3gとなっています。食塩摂取量は、この10年間で男性は0.7g、女性は0.6g減少していますが、最近は有意な減少量が認められなくなってきています(資料リンク)。

厚生労働省は「日本人の食事摂取基準(2020年版)で、目標食塩摂取量を男性 7.5g未満、女性 6.5g未満としています。高血圧の患者様の食塩摂取目標値は6.0g未満です。またWHOは 5.0g未満を推奨しています。

食塩摂取の年次推移(令和元年)

1-2) 食塩を控えるー減塩の方法(どうすれば減塩になるか考えてみましょう)

 

どうすれば減塩になるか、ここで考えてみましょう。何を思われましたか? ここに、すぐ頭に浮かぶことを列挙します。

                                                                 

1) 味付けを薄味にする、薄味になれる。               

2) 出された味付けに、勝手に醤油や食卓塩を加えない。

3) 漬け物を控える。

4) みそ汁の汁を全部は飲み干さない。

5) かまぼこ、ハム、ベーコンなどの加工食品を摂りすぎない。

6) カップ麺、インスタントラーメン等には注意する。

7) 酒の肴には注意する。

8) ラーメン店に行った時に汁を残す。

                           

 

これ以外にも思い浮かんだことはありましたか。頭に思いつくこと、おそらく全てが正解と思います。これが減塩になると思われたことは、直ぐに実行されてください。程度の差はあるかもしれませんが、実行できただけ減塩になっているはずです。

食塩を多く含む食材

1-3) 食塩を控えるー減塩の方法(データーを基に対策)

ここに、食塩の摂取源を示します(資料リンク)。摂取源で一番多いのは食事の味付けに使う調味料です。「味付けを薄味にする、薄味になれる。」は、調味料の使用量を減らしますので減塩に直結します。次に多いのが、みそ汁となっています。みそ汁の具だけ食べて、汁は出来るだけ飲まないようにすることが効果的です。みそ汁は毎日の朝食の食卓に上りますので、ここを減らすとコンスタントな減塩につながります。麺料理には汁にも相当量の食塩が含まれていますが、麺そのものにも食塩が含まれています。魚介類や肉類は必要な分は摂取する必要がありますので、ここで減塩するには加工食品を控え薄味にすることです。漬け物は減らした分だけ減塩になります。

 

麺自体とパンには食塩が一定量含まれていますが、ご飯には食塩は含まれていません。ここだけを見れば減塩にはご飯が良さそうですが、ご飯を食べる際に、ふりかけ・漬け物・汁物・おかず等食塩を多く含むものを一緒に食べる傾向にあり食塩摂取を誘導する食べ物となっています。

食塩の摂取源(円グラフ)

1-3) 食塩を控えるー減塩の方法(食塩を多く含む食材を知ろう)

 

「日本食品成分表」で調べたり、「食品成分データーベース(資料リンク)」で検索すると各食品に含まれる食塩量が分かります。

ここに、参考サイトを1つご紹介します。「よく食べる料理の塩分量の目安―長野県参考サイト(資料リンク)」は、日頃からよく食べる食品の食塩含有量を非常に分かりやすくまとめてあり、参考にされてください。この表からも分かる様にラーメンやうどんの汁も含めて飲み干すと相当量の食塩摂取になりますが、汁を残せばかなりの減塩効果が期待できます

料理の食塩量

食材別に見てみると、注目すべきは加工食品に含まれる食塩量のお多さです。

かまぼこ、ハム、ベーコンなどの加工食品に着目すると、かまぼこは1切れ10〜15gなので、1切れ当たり食塩 0.25〜0.38gになり、2切れで食塩約0.8gになります。薄切りロースハムは、3枚(30g)で食塩 0.8g、ウインナーソーセージ 2本(30g)で食塩 0.6gです。豚肩ロース(赤身) 100g当たり食塩0.2gと比較しても加工食品の塩分量は1桁多くなっています。

これに対して、生の食材は”あさり”等の貝類を除いて、食塩含有量は低くなっています。

これからも分かる様に加工食品を使い過ぎないことが減塩のコツの一つと言えます。

加工食品の食塩量
尿から食塩量推定

1-3) 随時尿から食塩摂取量を推定し、減塩の成否を評価する

 

当院では、「高血圧治療ガイドライン2014」で紹介された方法にて、外来での随時尿から1日食塩摂取量を推定し、減塩の評価に用いています。

 

1日の食塩摂取量は随時尿のNa濃度(mEq/L)・クレアチニン(Cr)濃度(mg/dL)を下の計算式、あるいは日本高血圧学会のサイトに入力して簡単に求められます。

                                                               

推定1日食塩摂取量(g/日)=24時間尿Na排泄量*(mEq/日)×58.44÷1,000

​                                                               

 

24時間尿Na排泄量*(mEq/日)

=21.98×[随時尿Na(mEq/L)÷随時尿Cr(mg/dL)÷10×24時間尿Cr排泄量予測値(mg/日)**]0.392

 

24時間尿Cr排泄量予測値(mg/日)**= 16.14×身長(cm) +14.89×体重(kg)-2.04×年齢-2244.45   

 

自分の減塩の頑張りを定量的に評価でき、この値を励みに頑張られています。

Kの降圧効果

2)  野菜、繊維成分、ミネラルをバランスよく摂取する:カリウムの降圧効果

 

野菜はカリウムを多く含み、カリウムには腎臓でのナトリウムの再吸収を抑制してナトリウムの尿中への排泄を促進するために、血圧を下げる効果があります。食塩摂取が1日6g未満であればカリウムの降圧効果は明らかではありませんが、ナトリウム摂取の多い(食塩を多く摂取している)人ほどカリウム摂取の降圧効果が大きくなります(資料リンク)

カリウムの降圧効果は遠位尿細管にあるNa-Cl共輸送体(NCC)をカリウムが抑制することにあると解説されています(資料リンク)。遠位尿細管にあるNa-Cl共輸送体(NCC)は糸球体で濾過されたナトリウムの約7%を再吸収し、血圧の維持に重要な働きをします。カリウム摂取はNa-Cl共輸送体(NCC)を抑制し、Na利尿を促し降圧効果を発揮します。降圧利尿薬であるサイアザイド系利尿薬もこのNa-Cl共輸送体(NCC)を阻害することで降圧作用を発揮します。しかしNa-Cl共輸送体(NCC)は腎臓の皮質部に位置しているため尿濃縮にはあまり関与しないので水利尿はあまり伴わないとされています。

摂取Kと高血圧

日本人成人のカリウム摂取量の中央値は、男性 1,893〜2,505mg/日、女性 1,689〜2,294mg/日(年齢間で中央値が異なっている)であり、高血圧予防のための望ましい摂取量は男性3,000mg以上、女性2,600mg以上としています(資料リンク)。

 

腎機能が低下すると尿中へのカリウム排泄量も低下するため、慢性腎臓病ステージG3以降で高カリウム血症の合併リスクが高まると報告されています。日本腎臓病学会は、慢性腎臓病においても高カリウム血症のリスクが少ないステージG1〜G3a(推定糸球体濾過量(eGFR)≧45)まではカリウム摂取を高血圧予防のための望ましい摂取量と同等(男性3,000mg以上・女性2,600mg以上)としています。eGFR 30〜44でカリウム摂取2,000mg/日以下、eGFR 30未満で1,500mg/日以下を目安としています(資料リンク)。

カリウム摂取目標値

                                                               

eGFR ≧45 mL/分            

  男性3,000mg以上

  女性2,600mg以上

eGFR 30〜44            2,000mg/日以下

eGFR 30未満            1,500mg/日以下

​                                                              

1日のK摂取量は随時尿のK濃度(mEq/L)・クレアチニン(Cr)濃度(mg/dL)を下の計算式、あるいは日本高血圧学会のサイトに値を入力して求められます。

                                                              

推定1日K摂取量(mg/日)=24時間尿K排泄量*(mEq/日)×39.10÷0.77

​                                                             

24時間尿K排泄量*(mEq/日)

=7.59×[随時尿K(mEq/L)÷随時尿Cr(mg/dL)÷10×24時間尿Cr排泄量予測値(mg/日)**]0.431

24時間尿Cr排泄量予測値(mg/日)**=16.14×身長(cm) +14.89×体重(kg)-2.04×年齢-2244.45   

減量の降圧効果
血圧-減量

3) 適切なカロリー摂取により適切な体重を維持する:減量の降圧効果

 

高血圧症の方も肥満を避け適正な体重を維持するように努めなければなりません。肥満があると、血圧が上昇するのみならず、糖尿病・脂質異常症も合併しやすくなります。

肥満の人が体重 1kg減量すると平均して収縮期血圧 1.1mmHg、拡張期血圧 0.9mmHgの降圧が認められたと報告されています(資料リンク)。

適切な体重、肥満について知識を整理しましょう。

BMI (Body Mass Index )

肥満・やせの体格指標であるBMI (Body Mass Index )という計算式をよく目にされると思います。

BMIの計算式:BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)

ご自身のBMIが≧25で肥満となりカロリー過多、<18.5でやせとなりカロリー不足、≦20.0で低栄養傾向と判断されます。

 

BMI 値                          

18.5未満             やせ型

18.5〜25未満      普通体重

25〜30未満         肥満(1度)

30〜35未満         肥満(1度)

35以上 肥満(1度) 高度肥満 

​                                                           

 

目標(適正)体重

目標体重(65歳未満)=身長(m)×身長(m)×22

目標体重(65歳以上)=身長(m)×身長(m)×22〜25

 

BMIや目標(適正)体重を計算すれば、ご自身の肥満度(やせ度)が定量的に理解しやすくなります。

 

肥満は内臓脂肪蓄積につながり、インスリン抵抗性(インスリンが効きにくい病態)を生じます。内臓脂肪蓄積を基盤に、高血糖・脂質異常症・高血圧症を複数合併する病態がメタボリックシンドロームと呼ばれています。メタボリックシンドロームは高LDL-C血症と独立した冠動脈疾患のハイリスク病態です。

 

肥満・やせ共に、がん・心疾患・脳血管疾患・その他の疾患による相対死亡率(BMI 23〜25を基準=1)を有意に上昇させます(資料リンク)。適切な体重の維持は高血圧や糖尿病・脂質異常症の予防・改善のみならず、がん・心疾患・脳血管疾患のリスクを軽減します。

肥満-がん・心疾患・脳血管疾患死亡リスク(修正1)
アルコール減量の降圧効果

4) アルコール摂取量を控える

 

少量のアルコールは気持ちをリラックスさせ一過性に血圧を下げる効果があるとも言われていますが、1日20g以上摂取すれば、アルコール摂取量に比例して収縮期血圧、拡張期血圧共に上がってきます(資料リンク)

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100%アルコール(エタノール)の比重は約0.8なので、20gの100%アルコール(エタノール)は25m Lに相当します。

日本高血圧学会は、アルコール摂取を男性20〜30mL/日以下、女性10〜20mL/日以下にするように指導しています。

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